その後の19世紀中盤 (1850年代に至る) までの150年の間に、ヨーロッパ各国において様々な抽出法と器具が発明され、その後もゆっくりと発明が続きました。
抽出方法と、代表的な抽出器具をまとめてみます。
コーヒー (イメージ) |
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【コーヒーの抽出方法】
コーヒーの抽出法は、基本的には浸漬法といわれるコーヒーの粉を水または湯の中に入れて浸出させる方法か、透過法といわれるコーヒーの粉の上から熱湯あるいは水を注ぎ、透過させる方法の2つに大別されます。- 浸漬法 (しんしほう)
コーヒーの粉をお湯または水の中に入れて浸出させ、一定の時間経過後に粉とコーヒーを分離させる方法。
浸漬法の例:ボイリング法 (特別な器具なし) 、フレンチプレス、コーヒー・サイフォン、パーコレーター、メリタ式ドリッパーなど。
- 透過法 (とうかほう)
コーヒーの粉の上からお湯または水を注ぎ、濾過する方法。
透過法の例:ペーパードリップ (メリタ式ドリッパーを除く) 、ネルドリップ、エスプレッソなど。
※エスプレッソは「エスプレッソ方式」として浸漬、透過、エスプレッソ (圧力) と3つに大別する考え方もあります。
エアロプレスは浸漬法にもエスプレッソにも属する特殊な方法です。
エアロプレスは浸漬法にもエスプレッソにも属する特殊な方法です。
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【コーヒーの抽出器具】
- ドリップ・ポット (Drip Pot)
ドリップ・ポットを用いたポアオーバー
その後、1800年代初頭に、フランスのパリでド・ベロワによりコーヒー・ドリップ・ポットが完成されます。
これは上下の2層に分けて上層に粉を入れて熱湯を満たすと、その底の小孔を通して浸漬液が下層にろ過されてコーヒーを得る方法で、これによりドリップ法が確立されます。
ドリップ法に使われる濾すための材料は、布または紙、あるいは小孔のあいた陶磁器か金属です。
ハンドドリップで一杯ずつ丁寧に淹れるコーヒーは「ポアオーバー」と呼ばれます。
- コーヒー・パーコレーター (Coffee Percolator)
コーヒー・パーコレーター (Coffee Percolator)
画像: (C) 2008 Wikimedia Commons (GFDL Ver.1.2, CC BY-SA 4.0)
1806年には、イギリスのラムフォードがこれヒントを得てコーヒー・パーコレーターの原型を作り、1819年にフランスのローランがポンプ式パーコレーターとして完成させました。
ローランのポンプ式パーコレーターはエスプレッソの原型となりました。
コーヒー・パーコレーターでは、沸騰した湯は上昇して粉に注がれ、自動的に浸出ろ過されます。
※形状はマキネッタと似ていますが、マキネッタは蒸気でコーヒーを抽出するエスプレッソメーカーなのに対し、コーヒー・パーコレーターは粗挽き豆を使いコーヒー粉を煮出す器具なので、まったくの別物です。
現在の形のエスプレッソ・マシンは、1901年にイタリアのルイジ・ベゼラによって発明されました。エスプレッソとは本来、マシンで高圧抽出されたものだけを指し、直火式で抽出されたものは「モカ」と呼ばれて両者は全く別の飲み物として認識されています。
- コーヒー・サイフォン (Coffee Siphon)
コーヒー・サイフォン (Coffee Siphon)
1840年にイギリス (スコットランド) の造船技師、ジェイムス・ロバート・ネイピア (ジェイムス・ロバート・ナピアー) が考案した、と言われています (ナピアー式抽出器) 。
しかし、サイフォンの原理を応用したコーヒー抽出は、実際にはそれ以前からヨーロッパ各地で行われていたようです。
現在のサイフォンのように、ダブルのグラスバルーンを上下に連結し間に金属のフィルターを置いてあるものは、1841年にフランスのヴァシュー夫人が発明しました。
他にも、1844年、ルイス・ガベットが発明した天秤式サイフォン (ウィーン式サイフォン) があります。
沸騰した熱湯が細い管を通ってレシーバーに注入されコーヒーの粉と接触した後、加熱を中止すると、抽出液は細い管を通ってグローブに戻ります。
コーヒー・サイフォンは「サイフォンの原理」 (大気圧ではなく重力による原理) を利用したものです。
- フレンチプレス (French Press)
フレンチプレス (French Press)
1929年にイタリア人デザイナーのアッティリオ・カリマーニが発明しました。
フレンチプレスは、紅茶の抽出器具と似た形をしており金属のフィルターでコーヒーを抽出するシンプルな器具です。
- マキネッタ (Macchinetta)
マキネッタ (Macchinetta)
なお、モカエキスプレスはイタリアのビアレッティ社の商標です。
1933年にイタリアで、アルフォンソ・ビアレッティにより発明された器具です。
沸騰した水の蒸気圧でコーヒーを抽出する方式の直火式エスプレッソ・メーカーの一種です。
- ケメックス (Chemex)
ケメックス (Chemex)
ケメックスはフラスコのような形をしており、専用ペーパーフィルター (一般的なフィルターより強度がある) を用い、コーヒーの粉をセットした後でお湯を注ぐと、円錐形の一箇所から抽出されたコーヒーが均一な濃さで得られます。
- エアロプレス (AeroPress)
エアロプレス (AeroPress)
エアロプレスは空気の力を利用した、注射器のような形をしたコーヒー抽出器具です。
紙のフィルターを使わないタイプですが、豆の挽き加減に関わらずコーヒーが粉っぽくなりません。
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産業革命によって河川の水質汚染が進んだイギリスでは、せめて煮沸しておいしく飲めるようにと紅茶の文化が発展していきました。
一方、独立前のアメリカ合衆国では、1773年、イギリスが新たに制定した茶法の適用を受けました。
これは、茶税を逃れようとして植民地側がオランダ商人から茶を密輸入していたのを禁じ、大量の茶の在庫を抱えて財政的に行き詰まったイギリス東インド会社に植民地での茶の販売独占権を与えるものでした。
これに対し、独立前のアメリカ合衆国で茶法に反対し、それまで愛飲していた紅茶をボイコットする植民地人が多くなり、代わりにコーヒーが普及しました。
現在でもイギリス人に紅茶党が多い一方、アメリカ人にはコーヒー党が多いのはこの時の不買運動に由来するものと言われています。
こうしてみると、嗜好品の飲み物に対する人類の情熱やこだわりが、歴史やコーヒー抽出器具の多さからも伝わってきます。
日本でも、嗜好品だったお茶が千利休によって茶道という「道」として確立され茶器が発展したことからも、嗜好品の飲み物は各国の文化に多大な影響を与えているのだと思います。